氷の大地に置き去り……「北極圏1万2000キロ」書評

氷の大地に置き去り……「北極圏1万2000キロ」書評

2019.03.10

どうも。当サイトを運営している「みっしー」です。

今回は植村直己シリーズ第四回目ということで、「北極圏1万2000キロ」をご紹介します。

前回の「極北に駆ける」から約1年半後、植村直己さんは再びグリーンランドを訪れます。

今回の目的はグリーンランドのヤコブスハウンからアラスカのコツビューまでの北極圏1万2000キロ犬ぞり単独行という偉業を成し遂げるためです。

この北極圏1万2000キロ犬ぞり単独行は約1年6ヶ月に及ぶ壮大な旅路でした。

著者について

【名前】

植村 直己(うえむら なおみ)

【生年月日】

1941年(昭和16年)2月12日

【出身地】

兵庫県

【職業】

登山家・冒険家

【経歴】

世界初、冬季マッキンリー(デナリ)単独登頂後、消息を絶つ

登山家・冒険家として数々の功績をもつ植村直己さん。

1984年、冬季マッキンリー(デナリ)に入山、単独登頂成功の通信を最後に消息不明に。

同年に国民栄誉賞を受賞。

前編(ヤコブスハウン~ケンブリッジベイ間6000キロ)の印象深い場面

【大切な食料】

ウマナックという町の周辺で、犬たちの食料確保のためにオヒョウ(カレイ)釣りをする植村直己さん。

三日間の時間を費やし、オヒョウを十分釣った後、ウマナックへでかけます。

用事を済ませて帰ってくると、野良犬がオヒョウに群がっていました。

慌てて追い払いますが、オヒョウはほとんど残っていませんでした。

【アンナ】

道中、オス犬たちがケンカをして思うように橇が進みません。

そこでチーム唯一のメス犬をリーダーとして先頭に配置したところ、オスたちがメスを追う形となり、スムーズに進むようになりました。

このメス犬を「アンナ」(エスキモー語で女性を意味する)と名付け、新たなリーダー犬とします。

【食事がすごい】

ある日の食事はコーヒーと乾パン、そして凍った肝臓。

【発情】

アンナが発情すると、オスたちが交尾しようと争います。

その争いによってオスたちはみんな怪我をしてしまいます。

不思議なことに、普段はケンカが弱く臆病なオスでも、このときばかりは強い犬に果敢に挑むそうです。

【出血】

溶けた氷の表面が針のようにとがり、犬の足を傷つけます。

氷雪の上には真っ赤な血が滴り、犬は悲鳴をあげます。

【最大のピンチ】

走行中、犬が左右に移動したために、犬と橇をむすぶリード(曳綱)が絡まってしまいました。

ほどくには橇からリードを外さなくてはいけません。

リードを外し、ほどき終えようとしたとき、植村直己さんは犬が動かないように大声で命令しました。

その大声に驚いたのか、犬は慌てて走り出し、植村直己さんを残して走り去ってしまいます。

氷の大地で置き去りにされ、絶対絶命のピンチに陥ります。

まだ死ねない。

植村直己さんは生き残る術を考えます。

中編(ケンブリッジベイでの越夏)の印象深い場面

【越夏】

ケンブリッジベイに到着したのは6月12日。

夏に近づき、気温が上がると氷がなくなるため、犬ぞりでは移動できなくなります。

そこで再び氷が張る時期までの間、ケンブリッジベイで越夏します。

【出産】

リーダー犬のアンナが6匹の仔犬を産みます。

チーム内のオスや、野良犬とも交尾していたため、父親はわかりませんでした。

後編(ケンブリッジベイ~コツビュー間6000キロ)の印象深い場面

【犬の育ち】

グリーンランドで鍛え抜かれた犬と、カナダ(ケンブリッジベイ)で新たに購入した犬との育ちの違いが、極地で残酷なほど明らかになります。

走りながらでも排泄できるグリーンランド犬に対して、止まらないと排泄できないカナダ犬。

さらにグリーンランド犬は排泄した糞までも奪い合って食べます。

橇を引っ張る力もグリーンランド犬の方が強く、カナダ犬は弱いうえにバテやすいことがわかります。

エサを食べるスピードもグリーンランド犬は速く、カナダ犬は遅いです。

そのためグリーンランド犬はカナダ犬のエサを奪い取ってしまいます。

強い犬はより強く、弱い犬はさらに弱ってしまいます。

前回の「極北に駆ける」で手に入れたグリーンランド犬が、極地で極限の生活を強いられても生き抜ける理由がわかりました。

【私はエスキモー】

旅の途中で出会ったカナダのエスキモーに「お前はエスキモーか」と問われた植村直己さんはこう答えます。

「ジャパニーズ・エスキモーだ」

【またしてもピンチ】

リーダー犬のアンナと黒犬の胸バンドを付けていたとき、近くで騒ぐ犬たちを怒鳴りつけます。

怯えて植村直己さんから離れる犬たちですが、不運にも犬たちを止めていた紐が切れて逃げ出してしまいます。

リーダー犬のアンナと黒犬の二匹と共に、再び氷の大地に置き去りにされてしまいます。

あとがき

今回は「北極圏1万2000キロ」についてご紹介しました。

この旅は1974年12月29日にヤコブスハウンを出発し、ケンブリッジベイで越夏。

1975年12月15日にケンブリッジベイを出発し、ゴールのコツビューにたどり着いたのは1976年5月8日。

約1年6ヶ月、総距離1万2000キロという果てしない犬ぞり単独行でした。

前回の「極北に駆ける」は3000キロでしたから、その4倍にも及ぶ距離です。

道中、様々な困難がふりかかりますが、決してあきらめず、また現地のエスキモーに助けられながら必死に進む姿に心を打たれます。

橇をひく犬たちも必死に主人に尽くし、寒さと飢えに苦しみながらも走り続けます。

犬を食糧にしても生き抜かなくてはいけない。

そう考えなければならないほどに、植村直己さんにとって過酷な旅となりました。

「北極圏1万2000キロ」は強烈な寒さと飢えの中で、ひたすら氷上を駆ける重厚な冒険記となっています。

ちなみにリーダー犬のアンナはこの旅のあと、イヌートソア2号という犬と共に北海道の旭山動物園に引き取られました。

その後、子犬を出産。

もしかしたら、いまもアンナの血をひく犬がどこかで生きているかもしれません。