エベレストに命をかける!「エベレストを越えて」書評

エベレストに命をかける!「エベレストを越えて」書評

2019.03.07

前回の書評「青春を山に賭けて」に引きつづき、今回も植村直己さんの著書を紹介します。

今回は「エベレストを越えて」です。

「青春を山に賭けて」では植村直己さんの青春時代から5大陸最高峰登頂の偉業を成し遂げるまでを描いていましたが、「エベレストを越えて」は植村直己さんの生涯のエベレスト記になっています。

植村直己さんは生涯で3回エベレストに挑んでいます。

1回目は日本エベレスト登山隊として

2回目は国際エベレスト登山隊として

3回目は日本冬期エベレスト登山隊(登攀隊長)として

「青春を山に賭けて」の作中に1回目のエベレスト(日本エベレスト登山隊)が描かれていますが、「エベレストを越えて」の方がより鮮明で詳しく記されています。

日本エベレスト登山隊での印象深い場面

【偵察】

日本エベレスト登山隊がエベレストに登る!と決まっても、いきなり登るのではなく、1次・2次と偵察部隊を送り込み、万全を期して本番に挑みます。

この偵察で課せられた調査の肝は世界未踏の大岩壁から登頂できるかどうかを判断することでした。

【ポーターとの交流】

エベレストに登るためにはヒマラヤ山脈に住む高地に順化した現地人(シェルパ、ポーター)を雇い、キャンプ道具や、食料を運んでもらう必要があります。

荷物を運ぶポーターの中には若い女性もおり、植村直己さんは休憩中に赤マジックでマニキュアのように爪を赤く塗ってあげたところ大喜び。

ポーターとの交流も忘れない、植村直己さんの優しさを垣間見る場面です。

【あの有名人も来ていた】

2次偵察の際、スキーヤーの三浦雄一郎さんが自分の挑戦(エベレストの8000メートルからスキーで滑降)のため偵察に来ていました。

【アイスフォールの死体】

エベレストのアイスフォールで約6年前にクレバスに落ちて亡くなったとされるアメリカ人の死体(ミイラ)が発見されます。

クレバスに落下後、約6年の歳月を経て、氷雪が崩れたり押されたりしながら、アイスフォールにたどり着いたことを考えると、エベレストへの畏怖を強烈に感じました。

【シェルパ】

高地で荷物を運ぶポーターと違い、シェルパは登山家たちの荷物を運ぶために、危険なエベレストを一緒に登ります。

シェルパもポーター同様に現地住民で構成されますが、死と隣り合わせの危険な仕事です。

【ヒマラヤでの越冬】

1次・2次の偵察を終えた植村直己さんは日本に帰国せず、そのままヒマラヤの村落に滞在、トレーニングを行いながら冬を越し、本番に備えます。

【本番】

日本エベレスト登山隊がヒマラヤに集結。
いよいよエベレスト登頂の本番です。

エベレストの過酷な環境を乗り越え、登頂できるのでしょうか。

国際エベレスト登山隊での印象深い場面

【強者ぞろいだったはずが……】

世界各国の名だたる登山家たちで編成された国際エベレスト登山隊。

植村直己さんを含め、並外れた実力をもつ面々でしたが、性格の違いや、それぞれの思惑が交錯して事態は悪い方向へ。

日本冬期エベレスト登山隊での印象深い場面

【冬期登山がいかに過酷か】

通常の登山はできるだけコンディションの良い時期を狙います。

一方、冬期登山は1年でもっとも厳しいコンディションである冬期を狙って入山します。

ただでさえ登頂が厳しいエベレストに、冬期に挑むことがどれほど危険なことか。

その危うさを追体験してみてください。

あとがき

常に死と隣り合わせのエベレスト登頂。

内容はかなりシビアで、高山病や凍傷、雪崩に滑落など緊迫した状況が続きます。

ノンフィクション作品ですから、本物の緊迫感を追体験することができます。

また植村直己さんの登山・冒険スタイルは基本的に単独ですが、「エベレストを越えて」で描かれる3度のエベレスト挑戦は、チームプレイです。

チームであることの強みや、チームであるがゆえに上手くいかない場面など、単独とは違った面白さがありました。

登山や冒険が好きな方、緊迫感を味わいたい方、エベレストやヒマラヤ住民に興味がある方にオススメの一冊です。